アタッチメントとは?
2023年12月、こども家庭庁から発表された「こども大綱」では、誕生前から幼児期までが人生の確かなスタートを切るための最も重要な時期だと記されています。「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン」の中で、「アタッチメント」は10回以上も出てくる子育てのキーワードです。最新の研究でも、アタッチメントの重要性がわかってきました。
アタッチメントとは「くっつく」ことで、心理学では「愛着」という意味で使われています。多くの生物は危険を感じたときにくっつきたいという欲求を持ち、親にくっつくことで子どもは危険な状況から生き延びやすくなるのです。
人間にとってのアタッチメントは、特定の人とのあいだにできる「気持ちのつながり」で、心の育ちに深く関わることが明らかになってきました。
小さな子どもは、不安なときや怖いとき、すぐ親などの身近な人にくっついて安心し、心を立て直そうとします。このくっつく相手は特定の誰かである必要があります。
信頼できる誰かとのアタッチメントを繰り返すことで、「信頼感」や「自己肯定感」といった一生涯にわたる心の土台がつくられていくのです。
―― 日常的にやっていることだと思えるのですが、何か特別なことをしたほうがいいのでしょうか?
私たち大人が考える以上に幸せの形成に影響する
回答:遠藤利彦さん アタッチメントは、怖くて不安なときや感情が崩れたときに、特定の信頼できる大人にくっついて「もう大丈夫」と安心感に浸ることです。小さな子どもが日に何度も見せる、ごく当たり前のことですね。 その当たり前のことが、特に幼少期の段階で自然に安定して経験できているかが、私たち大人が考える以上に、人間の一生涯にわたる心と体の健康や幸せの形成に大きく影響していることが多くの研究から示されてきています。アタッチメントが私たちの心の土台をつくると考えてみてください。
―― 保育園でもアタッチメントが重要なんですか?
保育園でも、安心できる大人がいることが大事
回答:近江屋希さん そうですね。子どもたちが入園するとき、家庭から外の世界に出て、保育園という新しい環境で初めての経験をしたり、初めて出会う人と過ごしたりします。そこで不安になったり、心配になったりすることもあります。そのときに「大丈夫だよ、私がいるよ」という大人に出会うことが大事だと考えています。
アタッチメントの重要性を示す実験
アタッチメントの重要性を示す実験を、大久保圭介さん(国士舘大学文学部専任講師)の監修のもとで行いました。
まず、男の子(1歳4か月)とパパの親子に、部屋に入ってもらいます。
次に、パパにだけ部屋を出てもらい、男の子にとって不安な状況をつくります。はじめて訪れた場所でひとりぼっちになって、パパを追いかけて泣き出してしまいました。
ここで、パパの代わりに見知らぬ女性が部屋に入ります。男の子を抱き上げてあやしましたが、泣きやみません。見知らぬ人では安心感を取り戻せないのです。
ところが、部屋に戻ったパパに抱かれると、すぐに泣きやみました。
すると、男の子は安心感を取り戻し、パパから離れてひとりで遊びはじめます。これこそが「アタッチメント」の大事な役割です。安心感を取り戻すと次の挑戦をはじめることができるのです。
アタッチメントは探索・挑戦する力を育みます。挑戦をはじめて不安になったら、助けを求めて戻り、安心したら再び出発して挑戦する。これを繰り返すと、子どもに「何かあったら戻ればいい」という確信が生まれます。
アタッチメントの積み重ねが「もっと先まで行ってみよう!」という探求心を育み、やがて親がそばにいなくてもひとりで挑戦する力がついていくのです。
―― アタッチメントは、新しい挑戦のために大事なのですか?
アタッチメントは探索とセット
回答:遠藤利彦さん 子どもにとって、怖くて不安なときにくっついて安心感に浸る経験を蓄積しておくことが大切です。また、ひとりでいろいろなことができる力の発達には、まずはアタッチメントがしっかり成り立っていることも大切です。アタッチメントは探索とセットだと考えてください。
―― くっつき過ぎてしまうと、親離れが遅れたり甘えん坊になったりすることはありませんか?
不安から解放されると、いろんなものに夢中になれる
回答:遠藤利彦さん くっついて安心感に浸った子どもは、やがて離れて、好奇心の塊になってひとりで遊ぼうとします。子どもは安心できるからこそ、あらゆる不安から解放され、いろんなものに夢中になれるのです。日常的に、その状態をつくってあげる、何気ない日々の積み重ねがとても大切です。
(りんたろー。さん)
先回りには注意、不快に応えてもらう経験が大切
回答:遠藤利彦さん 子どもが不安や不快になったら、大体は自分から泣いて声を上げます。まず「子どもが声を上げる」シグナルがあって、それに「大人がきちんと応える」という順番を意識してください。 先回りしていると子どもは受け身になってしまい、不快なときに自分から声を上げるような自己主張が弱くなるといわれています。不快を訴えて応えてもらうことは、「自分で動いたから嫌な状態から抜け出せた」「自分にはそれだけの力がある」という自分に対する自信のような感覚を身につけることにつながります。
―― 日々忙しい保育士の方は、どのようにアタッチメントをしていますか?
すぐに応えられないときは「行くから待っててね」「待っててくれてありがとう」と伝える
回答:近江屋希さん 保育園では、子どもが泣いて訴えることが同時多発します。もちろん、すぐに応えられるのがいちばんですが、そうならないときも多いです。そのようなときは、「今、行くからね」「これが終わったら行くから待っててね」と、言葉や表情などを使って伝えます。その後、「待っててくれてありがとう」と、こちらも表現で返すことを大事にしています。
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