心を追い詰めずに子育てするには?

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2021/12/18

出典:すくすく子育て[放送日]2021/12/18[再放送]2021/12/25

すくすくナイト「子育て中の心の危機~メンタルクライシス~」。
続いては、メンタルを追い詰めずに子育てをするために大事なことを考えます。

“子育てしやすい自治体” 孤立を防ぐ支援

メンタルを追い詰めずに子育てをするにはどうしたらいいのでしょうか。ひとつのケースとして、全国から注目されている兵庫県明石市の取り組みを取材しました。


今、明石市は子育てしやすい街と呼ばれ、子育て世帯の人口が増え続けています。

子育て中の方に話を聞くと、「おむつ定期便や訪問のようなサービスがたくさんある」「保健師さんが親身に話を聞いてくれて、妊娠中から安心できた」「子育て家族が住みやすい街だと聞いて引っ越してきた」など、みなさん手厚い子育て支援をあげていました。中でも好評なのが「おむつの宅配サービス」です。

こちらは「おむつの宅配サービス」の拠点です。子育て経験者で「見守り支援員」と呼ばれる人たちが、月に一度、おむつなどの赤ちゃん用品を、市内の子育て家庭に届けています。

この明石市の子育て支援「おむつ定期便」は、滋賀県東近江市の子育て支援「見守りおむつ宅配便」をヒントに、2020年10月に始まりました。どんな取り組みなのでしょうか。

この日訪れたのは、7か月のお子さんのいる家庭です。おむつ定期便の対象は、市内に住む生後3か月~1歳までの子育て家庭で、98%が利用しているといいます(2021年10月現在)。

毎月3000円分、おむつや離乳食セットなどの赤ちゃん用品を自宅まで届けてくれます。配送料・品代は無料です。

商品を届けるだけが目的ではありません。「離乳食はどうですか?」といったコミュニケーションも大事にしています。おむつ定期便のいちばんのねらいは、子育て家庭の見守りなのです。
支援員は特別な研修を受け、継続して同じ親子を見守っています。親の様子や悩みを把握し、必要に応じて保健センターや行政などの支援につなげています。

利用者からは、「ちょっとしたことを聞いてもらえるだけで気持ちが楽になって、人と話すことが大事だと感じる」「コロナで家族以外と話す機会がない中、ずっと配達に来てくれるので、遠い親戚のお姉さんのような感覚」といった声が聞かれました。

月に一度、たった数分でも訪ねてきてくれる人がいる。親たちの安心感につながっているようです。


ノックしてもらえることが大事

ベッキーさん

この地域に住みたくなる気持ちがわかります。訪問して、数分でも話を聞くことが大事だと感じました。こちらから「話を聞いて」と言いにくいところに、ノックしてもらえます。すばらしいと思いました。

地域のサービスも大事だが、育児と仕事を両立できる環境も

大日向雅美さん 

住んでいる地域の自治体のサービスは大事にしたいですね。一方で、働き方についても、これから社会が変えていかなくてはいけないと思っています。

心を追い詰めない仕事と子育ての両立

どんな働き方であればメンタルが追い詰められないのでしょうか。柔軟な働き方として注目されている、青野慶久さんが経営する会社を取材しました。


従業員は約1000人、ソフトウエア開発・販売を行っています。9割の社員がテレワーク中でした。

会社には、働く場所と時間を自由に選べる「働き方宣言制度」があります。
例えば、「水曜は午後から複業」「野球観戦の日は8時~17時の勤務」といった働き方を、社員が自ら宣言するのです。個人の事情に応じて、100人いれば100通りの働き方ができます。子育て中であれば、保育園の送迎のために勤務時間を調整することもできます。

こちらの社員(お子さん3歳のママ)は、毎週月曜日に出社。出社のときは子どものお迎えのため17時に退社、在宅勤務のときは18時まで働くようにしているそうです。

この制度を使いやすくしているのが社内の雰囲気です。チームの間では、日頃から仕事の進捗だけでなく、体調や子育てのことなど、自分の状況をこまめに共有しています。例えば、「保育園から呼び出しがあったので、30分ぐらい離席します」といったことも共有します。日常的に、子育てのための中抜けや早退があるので、迷惑やうしろめたさを感じることはないといいます。働き方を選べる制度と、それを使いやすい企業風土の2つがあってこそ、子育てと仕事が両立できているのです。

今でこそ柔軟な働き方に取り組んでいますが、かつては社員4人に1人以上が辞める企業でした。26歳で起業した青野慶久さんは、「事業を拡大していくには業績が最優先、社員の働き方は後回しで、辞めていく社員がいてもしかたのないこと」だと考えていました。でも、初めて直面した経営危機が転機となって、14年かけて社員の働き方を見直していったのです。

こうした柔軟な働き方に助けられたという社員がいます。

こちらの男性社員は、妻の出産に立ち会うため、会社と相談してママの故郷・佐賀県でリモートワークすることになりました。入社当時はプライベートの時間など考えられないほど仕事一辺倒で、そのころ子育てに入っていたら、どうなっていたのか想像できないといいます。

実はこのとき、はじめての子育てと義母の看病が重なり、メンタルの危機を経験していました。出産予定日を過ぎたころ、それまで安定していた義母の容体が悪化したのです。出産後すぐに東京に戻る予定を延期。会社に「佐賀に残って家族を支えたい」と申し出て、希望は認められました。柔軟な働き方のおかげで、はじめての子育てをしながら、義母を最後までみとることができたそうです。

ふつうなら夫の仕事や、その後の人生設計にも迷惑をかけてしまうことになったと思うと、私も苦しかったと思います。画面越しですが、夫の同僚の方に支えられている感じがします。母の最期と娘の最初に立ち会ってもらうことができて、人生で何を大事にするか考えさせられました。
(ママ)

「ここ3年は仕事のペースを落とします」といったことが安心して言える環境が大事だと思います。今の会社では、こんな働き方を選ばせてもらえて、とてもありがたいです。
(パパ)

広がる柔軟な働き方の取り組み

他の企業でも柔軟な働き方の取り組みが始まっています。その中からほんの一部ですが、いくつかのケースを紹介します。

一人三役
約20年前から行われている取り組み。自分の担当以外の仕事を2つ以上身につけることをルール化しています。担当者が休暇などで不在でも、社員同士でサポートし合える体制を作っています。
(三州製菓)

ママのための慣らし勤務(短日勤務制度)
育児休業明けの不安を解消するための制度。復職前のリハビリとして、育児休業中、1日6時間、月12日を上限にして、時給制で働くことができます。その間の交通費・託児費用は会社から全額支給されます。
(千葉銀行)

育児時間制度
1歳半までの子どもを育てている職員は、男女を問わず、最大1日2回、各45分以内で仕事を有給で休めます。例えば、保育園の送迎にも利用できます。
(鳥取県庁)

企業内助産師を導入している企業も
コロナ禍で子育てを相談できる人がいない中、会社の福利厚生として「企業内助産師」を取り入れている企業が増えています。会社が契約した助産師が、社員の悩みにいつでも相談を受けてくれます。メール相談は24時間以内に返信。オンラインでも相談が可能です。仕事と育児の両立に悩む男性社員の相談にものっているそうです。
導入している企業は、大阪シティ信用金庫、竹中工務店などがあります。


柔軟な働き方の導入は、合理的な経営のため

青野慶久さん

このように会社を紹介いただけると、私が“いい人”のように見えるかもしれませんが、合理的に経営しているだけなのです。社員に柔軟な働き方をしてもらうことで、離職率は下がり、モチベーションは上がり、組織のために貢献しようという気持ちで働いてもらえます。会社にとってもいいことが多いのです。
話にあったように、かつては離職率が28%(2005年)になった時期がありました。人が辞めると、新しい人を採用して、教育しなくてはいけないので、効率の意味でもよくありません。働く時間が減ったとしても、長く働き続けてくれるほうが、会社にとって効率がいいわけです。そのうえ、人が集まってきます。他の会社でも、ぜひ検討したほうがいいと思います。

柔軟な働き方がなかなかできないところにもメッセージが必要

大日向雅美さん

働いている人たちが、うしろめたさもなく、生き生きと働いている姿を見て、このような会社が新しい時代を切り開いていくのだと思いました。一方で、エッセンシャル・ワークなど、導入しにくい仕事もあります。そこへどのようなメッセージを送ることができるのか考えています。

役割を分担することで安心して働ける

青野慶久さん

残念ながら、柔軟な働き方ができる企業は限られているので、日本全体に広がるには時間がかかると思います。でも、必ずできることがあるはずです。例えば、「一人三役」のような取り組みがあれば、緊急で子どもを迎えにいかないといけないときにサポートしてくれる人がいます。そう思えるだけで心理的にも安心できます。小さいところから少しずつ、社会全体が変わっていくのではないかと思います。

働く人も自立が必要

大日向雅美さん

一見、働く人にとって桃源郷のように見えますが、厳しさもあるのではないかと思いました。例えば「この時間は仕事を離れます」と言える企業風土はすばらしいですね。そして、言った以上は成果を出していく。働いている人たちが自立していると思いました。

働き方を選ぶことで自問自答が始まる

青野慶久さん

そうですね。実際に厳しさはあると思います。誰かの指示で仕事をするほうが、あまり考えなくてもいい。言われた通りにやるので、責任は自分ではない。一方で、自分で働き方を選ぶときは、責任を伴います。そのため、自分はどう働きたいのか、人生で何を大事にするのか、そういった難しい問いの答えを探し続けることになります。その意味では、大変さもあるわけです。
そうはいっても、自己責任で追い詰めることはしません。困ったときには助けます。そのとき、誰かに気づいてもらう前に、自分で「大変です、手伝ってください」と言う。その自立心を持つことを義務にしています。主体性を大事にしているのです。
―― そのような制度のない会社では、どんなことができるでしょうか?

わがままにふたをせず、伝えることが次につながる

青野慶久さん

もしできるのであれば、「わがまま」と言われるかもしれませんが、困った気持ちを周りに伝えてください。例えば、働き方を少し変えたい、会社にファミリールームがあると助かる、と伝えることが大事です。
経営者は、意外と気づいていないこともあります。子育て経験のない経営者は、子育てに関することは言われるまでわかりません。社員が喜ぶのであれば、やってみようと言う経営者もいるはずです。
結果として、ひとつの制度ができれば、次に続く人たちのためになります。わがままだと思って心にふたをしないで、ぜひ声に出してほしいと思います。

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