不妊治療の悩み ― メンタルの不調
2021年4月、体外受精などの高度不妊治療を始めた女性の半数以上に、うつの症状が見られるというデータが発表されました。
※2021年4月 国立成育医療研究センターより
番組のアンケートにも、悩みの声が寄せられています。
夫とけんかや険悪な雰囲気が増えて、涙を流す日々です。心療内科に通われている方も多いと聞きますが、誰がそうなってもおかしくないと感じます。
仲のよい友人の妊娠も喜べません。自分の心の狭さに精神が崩壊しそうでした。
子どもを持つ人がうらやましすぎて、どうしてあの人にはできて、私にはできないんだろうと思ってしまいます。そういう自分が本当にいやだと思いました。
不妊治療に通う妻を支えるために、もっと夫婦でよく話し合えばよかったと思っています。妻の話を、いわゆる愚痴として聞くのではなく、もっと気持ちを聞ける余裕を持っていればと。ただ、余裕を持つことすら難しいのが不妊治療かもしれません。
不妊治療への偏見が心配で、体外受精が成功するまで、親にも、同じ女性である姉にも言えませんでした。言いたくても勇気がでません。「そこまでしなくても」と言われないだろうか、それでもほしいという私の気持ちをわかってもらえるだろうかと不安でした。
みなさんの声を聞いて、いかがでしょうか?
パートナーに気持ちを伝えることが大事
回答:笠井靖代さん 親や友人には、言えることと言えないことがあるので、バランスが大切かと思います。不妊治療に関しては、パートナーには本当の気持ち、つらい気持ちを伝えなければいけません。パートナーに遠慮して自分で抱えることが増えてしまうと、余計に行き違いになってしまいます。
メンタルが追い込まれる理由でいちばん多かったのが「いつまで治療を続けるべきなのか、ゴールが見えない」という声でした。
区切りを仮で決めて、パートナーと一緒に考える
回答:松本亜樹子さん ここで言うゴールは、子どもを授かることだと思いますが、自分にいつ来るのか、妊娠できるのか、なかなか見えないですよね。妊娠と出産は、自分でコントロールできないので、答えを出すのは難しいでしょう。だから、区切りのようなものを、仮決めしておくことが大事だと思います。 例えば、夫婦2人で、1年間は迷わずに頑張ってみると決める。1年たって、残念ながら子どもを授かっていなかったら、あらためて2人で話をする。治療を続けるのか、やめるのか。それとも、少し休んでみるか。パートナーと一緒に、治療のことや、子どものいる・いない人生を考えていただきたいと思います。
松本さんは、治療で悩む人たちを支える活動をされていますが、見えないゴールに悩む方は多いのですか?
そういった相談が増えている。私たちの体験を参考にしてほしい
回答:松本亜樹子さん 最近は、「不妊治療をいつやめたらいいか」といった、やめどきに悩む方の相談が増えています。私たち支援団体のサポートメンバーとも、治療のやめどきに悩む人にどうアドバイスするのか話し合っています。費用もかかるし、年齢や時間のこともあります。何をゴールに定めるのかも、人によって違います。 そのため、ゴールに悩む人には、私たちの体験を伝えています。サポートメンバーには、治療中の人、治療をへて子育てしている人、子どもを授からなかった人、養子を迎えた人など、さまざまな体験を持つ人がいます。グループカウンセリングやイベントを定期的に開き、自分たちの体験を話すことで、これからの生き方の参考にしてほしいと思っています。
同じ境遇の方と話せるだけでも大きなことだと思います。松本さんは、治療の区切りをどのように決めたのですか?
長い休みが続いているような感覚で、折り合いをつけていった
回答:松本亜樹子さん 不妊治療をやめると決めたとき、とてもつらかったです。夜になると毎晩泣いていました。昼間はわりと元気なんです。もう病院に行かなくていい。そんなことを思いながら過ごして。でも、夜、ベッドに入ると涙が止まらないんです。そんな日々が続いていたある日、ふと「治療したかったら、またはじめればいいじゃない」と思ったんですね。 誰かが私を縛り付けて、病院に行くなと言っているわけではない。私たち2人で決めたことで、誰かが「もうやってはいけない」と言っているわけではない。それなら、行きたくなったら行けばいいと思ったら、うそみたいに気持ちが楽になりました。 その後、「でも明日はきっと行かないよね。あさってもきっと行かないかな」という感覚がずっと続いて、なんとなくフェードアウトするような、長い休みが続いているような感じで、折り合いをつけていきました。
人の価値は、子どもを産む・産まないで変わらない
コメント:松本亜樹子さん 治療のやめどきで悩んでいる方がいたら、伝えたいことがあります。私は、子どもを産めない女性は価値がない、女として生きていけないのではないか、くらいに思ってしまっていました。でも、全くそんなことはありません。子どもを産もうが、産んでなかろうが、人の価値は変わらない。私は私、あなたはあなたなんです。
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