どんなに頑張っても母乳がでない…… 母親として失格なの?
授乳で大切なのは愛情や触れ合い
回答:笠井靖代さん 授乳のとき、赤ちゃんをだっこして一生懸命に目を見て話しかける。そのような愛情や触れ合いが最も大事なことです。どうしても母乳育児がかなわない人でも、自信を持ってミルクをあげていただきたい。母乳でもミルクでも、愛情を持って育てれば、その親子にとっては大事な栄養です。
それぞれのお母さんと赤ちゃんで違う
回答:市川香織さん 産後は、お母さんと赤ちゃんのセットで考えなければいけません。みなさん個別の悩みがあるので、それぞれの方に合わせた産後ケアの体制が必要だと思っています。きょうだいでも違いますし、その時々でも違いがあります。他のママと比べるのではなく、自分と赤ちゃんのことを考えてみてください。
授乳の状況はきょうだいで違うこともあります。1人目と2人目の子どもで全く違ったというママの話をうかがいました。
パパは、そんな私を心配して「ミルクでいいんじゃない?」と声をかけてくれたのですが、当時は、母乳育児をしたいという私の気持ちを理解してもらえていないと感じて、とても悲しかったです。その後、何度か母乳外来に通い、「ミルクを足してもいい」と言われ、気持ちを切り替えることができるようになりました。
2人目を妊娠したときは、母乳で育てたい気持ちはありつつも、出る量は多くないだろうから、最初からミルクと混合で考えていました。身構えることがなかったと思います。出産後、結果的に十分な量が出て、母乳だけで足りるように。1人目のときと比べて、体も気持ちも、ずっと楽になっていると感じます。
1人目のときはアパート暮らしで、特に夜泣きのときは近所に迷惑がかかるのではないかと心配でしたが、2人目は比較的大丈夫な場所に引っ越してからの出産でした。そんな環境の影響があるのかもしれません。
(3歳2か月・8か月 男の子のママ)
リラックスして完璧を求めないことも大事
コメント:笠井靖代さん このママの2人目の対応のように、リラックスして完璧を求めないことも大事ですね。経験を通して、度胸も出てきて、程よくリラックスすることもできたのでしょう。そのような気持ちの変化や、環境の変化で、母乳が出るようになったのかもしれませんね。
家族は赤ちゃんではなくママの気持ちに寄り添って
コメント:市川香織さん パパ、おじいちゃんやおばあちゃん、周りの人の言葉はとても大きいと思います。悪気はなくても、赤ちゃんのことを考えて、授乳のときに「足りないんじゃないの?」とつい言ってしまう。それはママにとってかけてほしい言葉ではありませんよね。家族や周りの人たちは、この時期はママの気持ちに寄り添ってください。そういった気遣いや声かけで、ママの気持ちの状態も大きく変わると思います。
授乳は当たり前にできることではない。専門家のサポートも重要
コメント:市川香織さん 授乳は当たり前にできることではありません。専門家のサポートも重要なので、うまくママとサポートがつながることができればと思っています。最近は、「アウトリーチ」という自宅に訪問するタイプの産後ケアに取り組む地域も出てきています。
アウトリーチ型の産後ケア
「アウトリーチ」と言われる訪問型の産後ケアは、専門知識を持つ助産師が、出産後の早い時期から自宅を訪れ、授乳に関する悩みを含め、子育てやママの心身の悩みなどについて相談に乗ってくれるサービスです。
どのようなものなのか、2017年から積極的に取り組んでいる千葉市のケースを紹介します。
千葉市のサービスと導入の背景
サービスの利用は登録制で、産後4か月まで7回訪問を受けることができます。料金が比較的安いのも特徴です。利用料金の8割は市の負担となっているため、1回の訪問につき2500円前後、通常の助産師訪問よりも利用しやすくなっています。
訪問する助産師は、ママと赤ちゃんの関わり方や状態に応じて、無理なく過ごせるようなアドバイスを心がけているそうです。乳房ケアや授乳のアドバイスだけでなく、産後のさまざまな悩みに寄り添ってくれます。
2020年4月現在、千葉市内の助産院や医療機関21か所が訪問型産後ケアを提供しています。このようなサービスを導入した背景には、ママたちの切実な声がありました。2016年に、千葉市が4か月健診で行ったアンケートの結果を見てみましょう。
ママたちの悩みのトップは授乳です。
さらに、「望むサービス」では、授乳方法や乳房ケアの相談が一番多く、訪問による相談を希望する人が半数以上だったのです。このような声を受けて、アウトリーチ型の産後ケアを積極的に進めることになりました。
アウトリーチ型産後ケアの体制作りを進めてきた川島広江さんにお話を伺いました。
川島広江さん(千葉市助産師会監事 助産師) 例えば、「おっぱいが痛い」という悩みの背景には、いろんなことがあります。ママの感覚で「大丈夫」と言っていても、実際は疲れていることもあります。疲れの原因が、出産のためか、家族とうまくいっていないのか、相談する人がいないからなのか。そのようなことに、私たち助産師は敏感に気づいて、支援していきたいと思っています。
コメント:市川香織さん 自治体がママたちのニーズをきちんと吸い上げて、助産師や専門家が対応できたいい事例だと思います。現在、アウトリーチ型の産後ケアは少しずつ増えてきていますが、全国どの自治体でも利用できるところまでは進んでいないのが現状です。
コメント:笠井靖代さん 育児の不安は、マンツーマンで寄り添って質問できることが大きいと思います。母親学級など、たくさんの参加者の中で質問するのが難しい方でも、1体1で、同じ担当者であれば話しやすいと思います。前に言ったことが伝わっていない、という問題もありません。こういった取り組みが全国に広がってほしいと思います。
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