保育園と幼稚園の教育目標は同じ。ひとことで言えば「人間として生きていく力を育む」ということです。このことは世界の幼児教育のトレンドでもあります。
キーワードは「非認知的能力」です。
非認知的能力とは?
非認知的能力とは、例えば、目標に向かって頑張る力、他の人とうまく関わる力、感情をコントロールする力などです。
数がわかる、字が書けるなど、IQなどで測れる力を「認知的能力」と呼ぶ一方で、IQなどで測れない内面の力を「非認知的能力」と呼んでいます。
いまなぜ、非認知的能力が注目されているのでしょうか? 世界の乳児教育に詳しい遠藤利彦さん(東京大学大学院 教育学研究科教授)に聞いてみました。
非認知的能力が注目される理由
教育経済学の代表的な研究者に、2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンさんがいます。
ヘックマンさんの主張は大きく2つです。
ひとつは、子どもの教育に国が公共政策としてお金を使うなら、就学前の乳幼児期がとても効果的だということ。
もうひとつは、幼少期に非認知的な能力を身につけておくことが、大人になってからの幸せや経済的な安定につながるということです。
ヘックマンさんの代表的な研究に「ペリー就学前プロジェクト」があります。アメリカのミシガン州で行われている、1960年代からはじまり、現在まで続く調査です。
▼こちらの記事も併せてご覧ください
子どもの“遊びの重要性”がよくわかる!長期的に行われた調査を紹介
調査の対象は、経済的に余裕がなく幼児教育を受けることができない貧困世帯の3~4歳の子どもたち123人です。この中の約半数の子どもに、週3回、1日3時間のプリスクールに2年間通ってもらいました。さらに、週に一度、教師による家庭訪問も行いました。
プリスクールに通ったグループと通わなかったグループ。その後の人生にどんな変化が起こるのか追跡調査をしたところ、40歳の時点で明らかな違いが現れました。
プリスクールに通ったグループは、通わなかったグループに比べて、収入が多い、持ち家率が高い、学歴が高いなどの差が見られたのです。
この結果の理由を「教育を受けてIQが伸びたからではないか?」と考えてしまうかもしれません。しかし、子どもたちのIQを調べると、プリスクールに通っている間は急激に伸びていますが、9歳ごろになるとIQの差はほとんどなくなります。
ヘックマンさんは、彼らが大人になってもより幸せでいられるのは、プリスクールに通って認知的な能力を伸ばしたからではなく、認知的な能力以外(非認知能力)を身につけたことが大きな要因ではないかと考えたのです。
日本での取り組み
日本でも、非認知的能力が注目されています。
2017年3月に改訂された「学習指導要領」に、その内容が組み込まれ、学習指導要領に合わせて保育所保育指針・幼稚園教育要領も改定されました。保育園・幼稚園も変わろうとしています。
非認知的能力が大事だというのは、どうしてですか?
目標の達成まで粘り強く頑張る力
回答:汐見稔幸さん 私たちは「文字が読める、うまくブロックを積み上げられる、三角形と四角形と五角形を区別できる」といった、目に見えて知的に賢くなったと感じる認知的な能力を重視しがちです。 しかし、幼児期に認知的な能力を高めることが、その後の人生の成功や安定につながっているのか、いろいろ調べた結果、あまり関係がないことがわかってきました。 大事なことは、うまくいかないときに諦めず「どうしてかな」「こうやってみよう」「これがだめなら、ああやってみよう」など、あくまで目標の達成まで頑張る姿勢を身につけることです。我慢できること、感情をコントロールする力なども大事です。 そのような力は一生残ります。大人になって社会で成功する力につながります。
非認知的能力は、どうやって身につけるんですか?
非認知的能力は、子ども主体の遊びで育つ
回答:大豆生田啓友さん 子どもの自発的な部分を大事にしましょう。させられるのではなく、自分からやっていく中で育ちます。 特に、幼児期の場合は遊びです。子どもたちは遊びこむ中で、やる気、意欲、粘り強さ、探求していく力が身についていきます。
「頑張ればできる」を積み重ねる
回答:汐見稔幸さん 子どもに任せきりでなく、大人がサポートすることも大切です。 例えば、子どもが遊んでいるときに失敗しかけたら「こうしたらどう?」とフォローしてあげると、頑張りが続きます。すると「頑張ればできるんだ」と、いつのまにかわかってくる。 このような経験を積み重ねていけば、後で必ず生きてくる力になります。 これを非認知的能力と言っています。
すくすくポイント
PR