入学準備、どうしてますか? 特に子どもの行動や発達で気になることがあると、不安もいっぱいですよね。どんな特性のある子でも楽しく学校に通えるように、親ができるのは何でしょうか。専門家と一緒に考えます。
専門家: 星山麻木(明星大学教育学部教授/特別支援教育)
落ち着きがなくてイタズラ好き… 小学校や近所とトラブルになるのでは?
運動が苦手… 小学校でも支援はある? いじめられたりしない?
入学準備をほぼ終えた体験談
入学準備をほぼ終えたという方の体験談を紹介します。
長女は来年小学生で、特別支援学級の情緒級に決めました。書類も全部そろえています。 娘は幼稚園の年少のころ、健診でことばの遅れなどを指摘されました。検査を受けて発達支援が必要だと診断され、年中のころから療育に通い始めました。習い事などをたくさんしたかったのですが、なかなかうまくいきませんでした。 娘の育ちに向き合う中で、自分が不登校だった学生時代を振り返り「無理をして頑張らせるのは、かえって娘を苦しめる」と気づきました。子どもにはつらい思いをさせたくない、元気に楽しく、生き生きとできるのはどこだろうと考えていました。 年中のうちから小学校や説明会などに足を運び、引っ越しも想定して隣の市にも行ってみました。ネットや本で調べたり、幼稚園、市役所、小児科、療育、児童相談所、家族、親戚、先生、教育委員会などに、電話で問い合わせたり、実際に行って相談したりしました。 かつては娘の将来を悲観してひとりで悩んでいましたが、幼稚園や療育の支援を受けることで情報が集まり、行動する力が出てきました。動くことで世界が変わると思いました。 (お子さん5歳5か月のママ)
子育ては、子どもを育てているようで自分も育てている
星山麻木さん ママは頑張りましたね。親が自分自身のことを振り返るのは、なかなかできないことです。子育ては、子どもを育てているようで、自分も育てています。自分自身の人生を振り返って、最良の道を選んだ。お子さんと、また新たによい支援につながる。とても意義深く、すてきな話でした。
支援内容や学級の置きかたは自治体によって異なる
星山麻木さん 支援内容や学級の置きかたは、自治体によって異なります。いろいろな情報を集めて、実際に見に行って決めたところがすばらしいですね。みなさんもぜひ、新しい情報や人とつながってみてください。特に先輩ママ・パパなど、経験がある人と話をして、情報を入手してみましょう。
子どもが成人したママの体験談
すでに子どもが成人しているという方の体験談を紹介します。
長男が3歳児健診のとき、ことばの遅れやこだわりなど、発達面での指摘を受けました。その後、ことばの発達を促す療育に通いつつ、保育園でも個別のサポートを受けて、それなりに集団の中で過ごせていました。でも、年長に上がるときには「息子に合った完璧な場に入学させないと、息子の人生が終わるのでは」という恐怖心で不安になってきました。 それから、保育園や療育の協力を得て、息子の特性を理解してもらうための資料を作成しました。その資料を携えて、進学予定の小学校へ何回も見学に行きました。私だけで行ったり、息子と見学したり。教頭先生が案内してくれたり、1年生の教室を体験させてもらえることもありました。 自治体の教育委員会からすすめられたのは、少人数で授業を受ける「特別支援学級」でした。でも、息子の「小学校で、大縄やる?」という言葉を聞いて「この子は小学校でも大勢の友だちの中にいるイメージを持っているんだ」と感じて、通常の学級にいながら週に2回ほど支援を受ける、通級の情緒学級を選びました。 息子は中学・高校は通常学級に進み、障害者枠で一般企業に就職。28歳になった今は、ひとり暮らしをして自活しています。 小学校入学が社会の入口で、「ここで人生が決まる」という気持ちでしたが、今では「ここで人生は決まらない」「どうにでも変えていける」と伝えたいです。子どもや私たち家族にとってどうなのか、という視点さえ持っていれば、どうにでも変えていける。伸びていく。大丈夫だよと伝えたいです。 (お子さん28歳のママ)
選択したことがうまくいかなくても柔軟に対応することが大事
星山麻木さん すばらしいと思いました。ママはお子さんの気持ちを尊重していましたね。 うまく行かなくても、それでだめではなく、やり直したり変更してみたり、柔軟な対応が大事です。先生やクラスメートなど、どのような人に出会って、どのようにしていくかは、どれほど頑張っても私たちに全てがわかるわけではありません。だから、選択したことをやってみて、うまくいかなかったら、少し変えてみればいい。ママは、長い人生の遠くのことと近くのことの両方を考えながら生きてきたのだと思いました。
りんたろー。さん(MC) 学校見学のときには、子どもを説明する資料を持って行くことも必要ですか?
子どものことをシンプルにプレゼンする資料を作る
回答:星山麻木さん 子どもを説明する資料は必要です。幼稚園や保育園などで、資料を一生懸命作ってくださるのですが、何ページもあるファイルだとなかなか読めないこともあります。子どものことをなるべくシンプルにプレゼンできる資料があるといいですね。 例えば、A4サイズの紙1枚ほどに、自分の子どもが得意なこと、学ぶときに力になる手段、悩みについて書きます。ただ漠然と書くのではなく「ここが困りそうだから、こうしてください」と、なるべく具体的な方法や解決方法を、わかっている範囲で書くほうが伝わりやすいでしょう。
りんたろー。さん(MC) 「じっとしているのが苦手な子です」とだけ書いて渡されても、そこからどうすればいいか探ることになりますが、「バランスボールがあると落ち着きます」と書いてあれば、それをヒントに広げていけますね。
それぞれの子に合ったオーダーメイドの教育へ変わりつつある。親からも伝える努力を
回答:星山麻木さん これからは、集団に合わせるよりは、それぞれの子どもに合うオーダーメイドの教育という考えで、教育現場も変わり始めています。学校だけに任せるのではなく、私たち親からも分かりやすく伝えていく努力が必要かもしれません。
小学校が変わりつつある
小学校の姿は大きく変わりつつあります。
文部科学省は2022年に、5歳(年長組)から小学1年生の2年間を「架け橋期」と名づけて、幼稚園・保育園・小学校が連携して、多様性に配慮した上で、すべての子どもに学びや生活の基盤を育むことを目指す「架け橋プログラム」の推進を決めました。
文部科学省は2022年に、5歳(年長組)から小学1年生の2年間を「架け橋期」と名づけて、幼稚園・保育園・小学校が連携して、多様性に配慮した上で、すべての子どもに学びや生活の基盤を育むことを目指す「架け橋プログラム」の推進を決めました。
中央教育審議会「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」委員を務めた久保山茂樹さんに話を伺いました。
久保山茂樹さん 保育所・こども園・幼稚園の教育・保育は、そもそもひとりひとりを大事にします。一斉で保育しているようですが、育ちも姿もみんな違うから、目指す姿やねらいがみんな違って、ひとりひとりに合わせた関わりをします。 一方で小学校の先生にも、今までのように45分間、正しい姿勢で先生を見て言うことを聞くような授業はもう成り立たないのではないか、子どもの本当の学びになっていないのではないかという問題意識が広がってきています。 例えば入学してから、しばらくの間は教科書を使わなかったり、机と椅子をなくして先生の前に子どもたちを集めて「あなたはどう思った?」と聞いたり。保育所・こども園・幼稚園でしているような内容を小学校の1学期に少し取り入れて、なだらかに教科の学習につないでいくことが実践されてきています。
2024年10月現在、「架け橋プログラム」は全国19の自治体で実施され、その成果が出つつあります。子どもの気持ちに寄り添い、子どものよさを認めて伸ばしていくことが、もっとも大事な入学準備かもしれません。
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