子どもたちに戦争のことをどう伝える?
実際に、子どもたちに戦争について伝えている園があります。その様子を見せていただきました。
「アルテ子どもと木幼保園」では、物事を考えるきっかけを与えることで、子どもたち自身がさまざまな興味を持ち、発想する力を養っています。今回、5歳児グラスで話し合っているのは、ウクライナとロシアの戦争について。統括園長の戸塚陽子さんが子どもたちに語りかけます。
―― 地球でいま、どんなことが起こっているのか、どんなことで困っているのか、話してくれる人はいますか?
〇ウクライナとロシアがケンカになった。
―― みんなが大きくなったときに、地球はどんなふうになってくれたらうれしいと思う?
〇戦争が終わったらうれしい。
―― そうだね。なんでうれしいんだろう?
〇パンとかいっぱい食べられるから。戦争が終わったら人間が死んだりしないから。
戸塚陽子さん 難しい話題でもみんなで考えることが大事だと思います。「子どもだからわからない」ではありません。子どもは子どもなりに考えてくれるのです。だから、今、世界で起こっていることを伝えています。
中でも、子どもに戦争のことを伝えやすいのが絵本だといいます。
―― 絵本をみて、自分が思うことを話してみたい人はいますか?
〇「へいわのボク」は元気に遊んでいて、「せんそうのボク」は一人ぼっちで誰とも遊べないから退屈している。
〇「へいわのかぞく」は食事とかいっぱいお金を払えるけど、「せんそうのかぞく」は人がいない。
〇「へいわのき」はりんごをみんなでたくさん食べられるけど、「せんそうのき」はりんごがないから仲良く食べられない。
戸塚陽子さん 子どもたちは思ったことや感じたことを何でも自由に発言します。こうすることで、自分の気持ちが出しやすくなり、相手の意見に耳を傾ける力がつきやすくなります。
そして、もうひとつの取り組みが「歌」です。みんなで「まあるいいのち」をうたいました。
♪ みんな同じ生きているから~
♪ 一人にひとつずつ大切な命~
♪ まあるいいのち
―― さぁ、みんなの命のかたちはどうかな?
〇ハート
〇ぼくは三角
戸塚陽子さん これらの言葉は、乳幼児期だからこそ出てくる言葉だと思っています。人はそれぞれいろんな形の命を持っていると思うことを大事にしてあげたい。命の大切さや個性を尊重する心を言葉だけでなく、歌で感じて学ぶことが戦争を解決するヒントになると考えています。
日々、平和や命について学ぶ子どもたちに、「どうすれば戦争がなくなる?」と問いかけたところ、争いごとを解決するアイデアがたくさん出てきました。
〇ウクライナとロシアが結婚すればいい。
〇世界を平和にすれば、ケンカはなくなると思う。
〇ウクライナとロシアが離れちゃったけど、近くになったら一緒に遊んだほうがいい。離れちゃったらかわいそう。
〇自分からあやまりに行く。許してもらえなかったら話し合って仲直りする。
保護者の声 〇命の大切さを伝える機会はなかなかないので、悲しい思いをしている人たちがいる、失われている命がある現実を子どもたちと共有してもらえるのは、とてもありがたいと思います。 〇例えば家庭内のケンカのときに、相手に耳を傾けて話を聞いたりすることができていると思います。 〇子どもがケンカになったときは、保育士の方がそれぞれの考えを聞いてくれます。お互いに相手がどう感じたかを考えながら、自分との違いに気づくことは、成長に必要だと思います。平和につながる一歩かもしれません。
戸塚陽子さん 私は、「小さなケンカはたくさんしてもいい」と考えていますが、「必ず叩いたほうも、叩かれたほうも、自分の言い分を言う」ことを約束にしています。そうすることで、話す力・聞く力、人の話を聞いて考える、対話で解決しようとする力が身につくと思います。話し合っているとき、どちらの子にも味方になる子が出てきますが、保育士は仲裁しません。子どもたちがお互いの気持ちを話しているときに、保育士の考えや正解のようなことを絶対に言わないのです。子ども自身が相手のことを考えることで、幼少期から「共感する力」が身につくと考えています。
―― 池田さん、渡部さん、園の取り組みについてどう感じますか?
幼児期でも身近な体験から命の大切さを学ぶことができる
池田美樹さん 子どもに生々しい映像を見せると衝撃になってしまう場合もありますが、シンプルな絵本はわかりやすく、想像力を広げるような働きかけになっていると思います。一般的に、命を失くしたら戻ってこないことがわかるのは、小学校高学年ぐらいだといわれています。でも、幼児期であっても、命の大切さを、見たり、聞いたり、虫などの身近な生き物や大事なペットなどの体験から学ぶことができると思います。
本質的に捉えている子どもたちに希望を感じる
渡部陽一さん 園での様子を見て、「希望はある」と感じました。子どもたちはうまく気持ちを表現できなくても、本質的に捉えている。子どもたちの振る舞いや温かい感情から、そんな安心感を強く持ちました。いろいろな入り方・感じ方を、子どもたちはしっかり受け止めてくれている。寛容の気持ちに包まれていて、うれしい気持ちになりました。 子どもたちの歌にも、本質的な気持ちが乗っていると感じました。言葉が通じなくても、その国の民謡など、それぞれの国の音・メロディーを聞くだけで、なぜか優しい気持ちになって、涙が出てきます。音が持っている力は、理屈抜きに子どもたちにつながると感じました。
お互いに相手のことを知ることが、必ず大きな力になる
渡部陽一さん 約30年前にアフリカのルワンダという国では、大きな悲しい戦争・民族の衝突が起こりました。でも、これまでの歳月で、相手のことをひとつひとつ知って、気づいて、寄り添ったことによって、お互いの感情がつながり、共感力が広がって、戦いが収まってきました。これも、戦場の現実としてあったことです。 また、ルワンダでは、アフリカの周りの国々の人たちが架け橋となって、お互いの声をつなげていきました。 地域、民族、宗教は関係なく、それぞれの地域で重なる架け橋は必ず存在しています。ひとつだけでいい、相手のことを知ってみること。時間がかかったとしても、1日1日の言葉や時間の共有という重なり合いが、必ず大きな力になっていくと思います。
―― 渡部さん、子どもに戦争のことを伝える上で、大事なことはどんなことだと思いますか?
気持ちをつなげることができる環境を支えることが、大きな架け橋になる
渡部陽一さん どの戦争でも変わらないのは、「戦争の犠牲者は子どもたち」だということ。どの地域の戦いでも、必ず子どもたちが犠牲になっている現実を、知っておく必要があります。戦いが続いていく中で、相手と少しでもつながれるように、それぞれの子どもたちが知りたいこと、触れたいこと、聞いてみたいこと、大好きなこと、試してみたいことがあったら、どんなことでもいいので、それをつなげていける環境を支えていくことが、世界中につながる大きな架け橋になると思います。相手とつながるきっかけは、日常の中にたくさんあると感じています。 親は、子どもがまだ知らない世の中の架け橋になれます。また、子どもにとって親はいつも近くで一緒にいる存在で安心感があり、大きな支えの力だと思います。
鈴木あきえさん(MC) これまで「戦争について伝えないといけない」「教える時間をつくらないとけない」と思っていたのですが、考え方が変わりました。日常生活の中に考えたり、触れたりするきっかけがあり、子どもと一緒に話し合って、考えて、戦争や平和について見つめ直していく。そんな日々の積み重ねが大切なのだと思いました。
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