【専門家に聞いてみよう】スマホ・タブレットと子ども どうつきあう?(1)
いまや、生活になくてはならないインターネット。ですが、「どのくらい子どもにスマホを見せていいの?」「子どもには安心なコンテンツを見せたいけれど・・・」など、疑問や不安を感じるパパ・ママも多いのではないでしょうか?
「すくコム」では、乳幼児の子育てに詳しい教育学者の汐見稔幸さんに、デジタル機器・コンテンツとのつきあい方についてうかがいました。
これはデジタル時代だからかどうかはわかりませんが、親子の関係が、昔とは変わってきたな、と思う点はいくつかあります。
親子の関係が“規制的”になっている
現代では、子どもに「外で遊んでおいで」って、親が目を離すことがなかなかできないでしょ?親としては、子どもを放っておくことについていろいろなリスクも気になりますしね。だから、親子がいっしょにいる時間がけっこうあるんです。それも閉じられた家庭空間でね。子どもが幼稚園や保育園に行っている時間はまだいいけれど、家に帰ってきたら、子どもは家でバーっと遊びはじめますよね。そうなると親は「やめなさい!」「静かにしなさい!」となるわけです。となると、子どもは遊べないもんだから、欲求不満になるでしょ。それで子どもは反抗的な態度になる。あるいは、親の目には反抗的な態度にみえる。そんなことが続いていて、“子どもが何歳になっても扱い方がわからない”というパパ・ママの声をよく耳にします。
どうしても、親が子どもに対して、規制的にならざるを得ない。家庭の中でそんな状況が増えているように思います。
あくまでも親子で楽しむための「ツール」
僕は、動画などのコンテンツは親子で家庭生活を楽しむための「ツール」、親子に「あそび」などのきっかけを与える「ツール」、という風に思っているので、原則は親子で遊んでほしいですね。
子どもは、「あそび」を覚えたり慣れたりしていくと、自分たちで好きにやりはじめるものなんだけど、今の子どもたちはそもそも、外での自由なあそびをあまり知らないから、最初の「あそび」のヒントはコンテンツ等から与えてもらうような形になるかもしれませんね。
デジタルは「あそび」の楽しさを知ってから
その時、コンテンツにのめりこんでしまって、いわゆる嗜癖(しへき:あることを特に好きこのんでするくせ)、つまり、そこから離れられなくなるという問題が生じることがありますね。どうしてそういうことが起きてしまうのかというと、子どもがまだ「あそび」の面白さを知らないうちに、コンテンツとかデジタル機器自体の面白さだけを覚えてしまうようなこと・・・例えば、画面が変わることが面白い、というようなことですけど・・・子どもが「あそび」など他にいろいろな楽しい世界があることを知らないままで、手軽に画面の変化だけを楽しむようになったりすると、そこから離れられなくなってしまうのではないかと思います。
だから僕は、子どもが3歳くらいになって、いろいろな遊びや自分で遊ぶことの面白さをを知ってる状態になってから、こういうコンテンツを利用していくほうがいいのではないかなと思っています。大事なのは、デジタルコンテンツがあくまでも「ツール」である、ということなんですね。
子どもの活動がふくらむデジタル機器とのつきあい方を
例えば、ある園でのこと。クラスに1つ万華鏡が置いてありました。そうすると子どもは、「僕がみた模様は面白かった」「こんなおかしな形だった」っていうんだけど、その子がどんな模様を見たか、他の子にはわからないわけです。それではつまらない、ということで、1人で1つずつ万華鏡を手作りすることになった。すると今度も、「僕の万華鏡でこんなのが見えた!」っていうんだけど、他の子は誰にもそのよさがわからない。みんなで共有できないんだったら、本当の意味での楽しみとはいえないんじゃないか、ということで、園の先生たちがいろいろ考えた結果、「こどもたちに万華鏡をデジカメで撮らせてはどうか?」となったんです。デジカメで撮って、パソコンに入れて、プロジェクターで映せば、みんなで見られますよね。しかも、万華鏡ってぐるっと回すと動きがあるので、動画にしてもおもしろいですよね。それに気づいた子どもたちは大喜びで撮って、どんどんモニターに出していくんです。子どもたちは、それまでは“使ってはいけない”と言われていたデジカメを使わせてもらえる!というので、ものすごく真剣でした。そして、これを使える喜びや、パソコンにデータを入れてモニターで映せることの喜び、ちょっとお兄さんお姉さんになったような背伸びした感覚でいっぱいになったんです。
そんな風に、デジタル機器はそれを使えること自体が目的なのではなくて、園や家庭での活動がふくらみを増すように使うツールであることが大事だと思います。
コンテンツについても同様で、家庭での親子関係が「規制的」から、いっしょに何か楽しいことをするような「生産的」な関係に脱却していくきっかけとなるツールとして使う、ということが大事だろうと思います。
東京大学名誉教授・白梅学園大学前学長
専門は教育学、教育人間学、育児学。子育てや教育を総合的な人間学としてとらえ、追究している。NHK「すくすく子育て」等出演中。著書多数。
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