「子どもに幸せな人生を歩んでほしい」「先行き不透明な時代に、子どもには生き抜ける力をつけてほしい」・・・では、そのためには、子どもはどんな力を身につけたらいいのでしょうか?
最近、しばしば耳にする「非認知的能力」や「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」について、“詳しくはわからないが、なんとなく身につけておくとよさそうな力”だと感じているパパ・ママもいらっしゃるのではないでしょうか。
そこですくコムでは、「非認知的能力」「10の姿」についてのいろいろな疑問を、幼児教育の専門家、大豆生田啓友さんにうかがいました。そこには、“幸せな人生” “生きる力”のヒントがありましたよ!
ヘックマンという人が行った有名な研究があります。アメリカの貧困地域で、プリスクールに通っている子どもたちを、遊びなど子どもの自発的活動をさせた群と、それをしなかった群にわけて、追跡調査を行ったものです。その結果、40歳の時点の収入・学歴などの面で、プリスクールに通った子どもたちのほうが上回っていることがわかりました。つまり、非認知的能力を身につけることが、その子の後々の成績や収入、離婚率や犯罪率等に関連する、という結果が出たのです。この研究結果からは、非認知的能力が人生の土台である、ということがわかります。
ただ、注意しなくてはいけないのは、研究結果にすべての子がピッタリ当てはまるか、というと必ずしもそうではない、ということです。人はひとりひとり生まれ持った性質も違いますし、長い年月をかけて育つ過程では実に様々な要素が絡んできますので、これをやればこうなる、というほど単純なことではないんです。
最近の研究では、「遊びこむ」(何かに熱中して徹底的に遊ぶ)ことを経験してきた子どもたちは、学びに向かう意欲が高い傾向がよみとれる、という結果も出てきています。もちろん、それも非認知的能力の重要性を示すデータではありますが、研究で出たのはあくまでもそのグループ間の差ですから、ひとりひとりの子どもに全て同じ変化が起きたわけではありません。「これをすれば、将来成功する」と言い切れるほど、単純なことではないんです。全体の傾向として、あそびを通して非認知的能力を育てることが、その人の人生にとって重要であることがわかってきたといえますが、それがウチの子にそのまま当てはまるかどうかは何ともいえない。人の成長や発達、そして人生というのは、様々な要素から成り立つ、とっても複雑なものですから。
夢中で遊んでいる、何かに没頭している、というのはひとつの評価軸です。ただ、子どもっていうのは、大人からみてわかりやすい姿で何かに夢中になっているとは限りません。大人から見たら、何もせずにじっと石ころを見つめている、というような場合でも、子どもは「どうしてザラザラしてるんだろう?」「ほんとうにずっと動かないのかな?」「向こうのアリがこの石の上に乗ったらどうするかな?」など、興味津々で、まるで科学者のように仮説をたてて石を見守っているのかもしれません。また、他者と折り合う、という力についても、元気はつらつでいつも人とうまくやっているようなタイプばかりではありません。ケンカをしょっちゅうして他者と衝突しているんだけど、そのあとそんなに時間をかけずに自分の気持ちを穏やかにすることができる、とか、ケンカのあと猛烈に悔しがるんだけど、ケンカ相手のすごいところもよくわかっている、とか、非認知的能力のあらわれ方はとても多様です。人それぞれにキャラクターがあるので、“「その子らしく」夢中になっているかな?” “「その子らしく」他者と折り合いをつけているかな?” という点から、子どもの様子を見てあげていただきたいな、と思います。
結論からいえば、「生涯にわたって」伸びると思います。大学生になったって、おそらく何かに意欲がもてるようになれば、思わぬ力を発揮するなんてことはあるんじゃないでしょうか。私のところの学生たちでもそんな例は少なからずあります。いま、「発達」についての考え方は、「生涯発達」といって、「人は生涯にわたって発達する」という考え方なんです。幼児期に全てが決まってしまう、人の能力も全て乳幼児期の働きかけで決まってしまう、というのはなんだかウソくさい感じもしませんか? 研究が示すように、乳幼児期に非認知的能力を伸ばすことが、その後のよりよい発達を促す可能性は当然ありますが、幼児期に全てが決まってしまう、ということはないと思います。
親はどうしても、「幼児期に能力を身につけてやれるなら、そうしてあげたい」と焦るものです。その気持ちもわかります。でも、大人になってから何かにハマる、とか、何かの道に目覚めて能力を発揮しはじめる、ということだってあるんです。親の気持ちの面からいっても、「○歳までに△△しなきゃ」と思うより、「いつか伸びる」そんな可能性を信じて、子どもと過ごしていくほうが楽しいですよね。
玉川大学教育学部教授(幼児教育学・子育て支援)
幼稚園教諭の経験をもち、保育所・幼稚園や子育て支援施設をフィールドとして、幼児教育・保育・子育て支援についての実践研究を行っている。3人の子どもの父親でもある。
幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿
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