柴田愛子さんが代表を務める保育施設には、2〜5歳まで100人ほどの子どもたちが通っています。そこでは、どのように子どもたちを見守っているのでしょうか。子どもの「やりたいこと」を尊重する、柴田さんの見守り方を見せていただきました。
ここは、2〜3歳児のクラスです。男の子が、ピアノの鍵盤を触りながら行ったり来たりしています。音の変化を楽しんでいるのかな? でも、手に持っているのは金属製のミニカーです。これではピアノが傷ついてしまいます。
柴田さんは「ミニカーだと傷ついちゃうから、手でやってみて。ビューって」と声をかけます。でも、ちょっとやりにくそうです。
柴田さんは決してやめさせません。「もっと柔らかいものはないかな?」と言って、一緒に別の方法を探します。
探してきたぬいぐるみでやってみると、うまくできたようです。このように、子どもの「やりたい」という気持ちを応援しているんですね。
こちらでは子どもたちが白いひもを見つけてきました。どうやら、ひもを麺に、段ボールをどんぶりにして、ラーメンに見立てたようです。柴田さんは「大きなラーメンね。いっぱいあるね。どれどれ、チュルチュル、ああおいしい」と声をかけます。すると、柴田さんに刺激されたのか、子どもたちがラーメンの具になるものを持ってきました。
あれ? いつのまにか、段ボールのどんぶりがお風呂に変わったようです。遊びながら、子どもたちの想像力がどんどん膨らんでいきます。柴田さんは、その変化に気づいて遊びを後押ししていくのです。
今度は、おもちゃにしていた電話が壊れています。男の子が投げつけてしまったようです。
さすがに叱ると思いきや、柴田さんは「壊れちゃったね。でも、ちょっと見て。中はこんなになっているよ。線がいっぱいだね」と声をかけます。投げつけたことを叱らずに、電話の中身に興味を持たせようとしているんです。
周りの子どもたちも、興味津々です。責めることなく、視点を変えて、気持ちを別のところに向けさせました。
その後、男の子は壊れた電話を元に戻そうとしていました。一度興味を変えたことで、自分のやったことに向き合っているんですね。
背景にある子どもの気持ちに共感することが大事
コメント:汐見稔幸さん 子どもは、よく大人にとって都合の悪いことをします。そこで「ダメ」と言うのではく、どうすれば子どもたちが自分自身で考えてくれるのかを想像して、仕掛けてあげる。柴田さんはそのように応援しながら、子どもたちに合わせて対応を修正していますね。 ピアノが傷ついたらどうしよう、というシーンがありました。そこで、頭ごなしに叱るのではなく、「子どもはこういうことをやりたがるよね」とわかった上で対応していました。大人の論理だと「そんなやり方はダメよ」となりますが、やりたがっている中身については共感しているわけです。「認めるよ。場合によっては応援するよ」という姿勢は、家庭でもできるのではないでしょうか。 子どもがやりたがっている、その背景にある気持ちに共感すること。共感した上で、難しいときには「こんなやり方もあるね」といった代替案を示してあげる。私は、それも親の仕事ではないかと思います。
子どもが小さいころは、しつけが押しつけになりがち
コメント:柴田愛子さん 感性と本能で生きているような子どもたちに、しつけばかりでは難しいと思います。私たち大人には分かりにくくても、彼らの思いがあります。それを大人の都合で制限すると、大人にとっては居心地がよくても、面白いと思ったことに挑戦する子にはなりません。モヤモヤを吐き出すこともできず、内にため込んでしまうかもしれません。 小さい子どもにとって、しつけは押しつけでしかありません。その上で身につけてほしいことであれば、しつけてもよいのではないでしょうか。例えば、安全や人を傷つけるようなことです。そのほかのことも、子どもが成長して、自分の気持ちをきちんと認識できるようになったときに身につきます。人が怒ったり泣いたり、ものが壊れたりすることと、自分の気持ちが因果関係で結びつくようになり、自分でコントロールできるようになっていくのです。 だから、今できないことを、急いでできるようにさせることは、あまり必要ではないと思います。
やりたいことを可能な限り尊重することが大事
コメント:柴田愛子さん 子どもの「やりたい」という気持ちを尊重すると、うれしいことや悲しいこと、思いがけないことなど、いろいろと付随してきます。このとき、頭も一緒に動き始めるんです。ああしてみよう、こうしてみようと、いろんなことを考えて実行する。子どもの「やりたい」が、総合的な学びにつながると思うのです。 やりたいことはとことんやって、達成感を得る。すると、次につながっていく。この繰り返しが大きくなっていくことが大切だと思います。子どもたちの成長を焦らずに見守りたいですね。
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