「すくすく子育て」で悩めるパパ・ママにアドバイスをしてくれる専門家の先生たちは、どんな子育てをし、どんな子ども時代を過ごしたのでしょうか。
専門家の素顔に迫ります!
専門家: 井桁容子(保育士歴42年) 汐見稔幸(東京大学名誉教授 教育学) 大豆生田啓友(玉川大学 教育学) 大日向雅美(恵泉女学園大学学長 発達心理学)
笑顔でいることがいちばん ~井桁容子さん~
保育の現場で、40年以上に渡って子どもたちを見続けているベテラン保育士の井桁容子さん。
子どもがちゃんと食事をしてくれないという悩みに対して、ママが笑顔でいることの大切さを教えてくれました。
そんな井桁さんはどんなママだったのか、お話を伺いました。
― たくさんの子どもたちを見てきているので、完璧な子育てをしてきたのではないかと思うのですが、実際はどんなママだったのですか? 職業としてはプロでも、親はみんな同じです。悩んだり、心配したり、失敗もたくさんしてきました。 仕事が終わると夕食の献立のことばかり考えていて、食材の買い物はしたのに、保育園に子どもを迎えに行くのを忘れてしまったこともありました。そのころは育児や家事をすごく頑張っていて、いちばん大事な子どものことを忘れるほど、余裕がなかったんです。 ― 頑張り過ぎてしまうママは、どうしたらいいと思いますか? 私のように大事なことを忘れてしまうかもしれません。子どものために頑張っているはずが、子どもを忘れてしまうなんて本末転倒です。今思えば、「私はママとして完璧」だと自分自身を評価したかったのかもしれません。 「私なんてダメなママ」という相談をたくさん受けます。そして、「そのぐらいで調度いい、いいママになろうとしているのは、子どものためじゃないですよね?」と伝えると、多くのママたちが泣くんです。実は、姑やパパ、自分の両親に、“いいママ”と評価されたくて頑張ってしまっていることがたくさんあります。 ― 子育てで悩んでいるママ・パパにメッセージをお願いします。 つらいこともあるけど、やっぱり子どもが笑っていると、私たちも笑えて、笑うことで元気も出てきます。だから、できるだけ笑顔を大切にしましょう。歯を食いしばるより、表情をゆるめて暮らせるように心がけていると、不思議なことに子どもも笑顔がいっぱいになります。頑張り過ぎず、パパやママが笑顔でいることがいちばんだと思います。
子どもを信じて見守る ~汐見稔幸さん~
教育学・育児学が専門で、育児に関わる著書を40冊以上執筆している汐見稔幸さん。
子どものやることに、どこまで口を出していいのか悩むパパとママに対して、信頼することの大切さを教えてくれました。
そんな汐見さんはどんな子ども時代を過ごし、どんなパパだったのか、お話を伺いました。
― いつも穏やかな語り口ですが、子どものころからそうだったのですか? 信じ難いかもしれませんが、何かあると激しくキレてしまって、とても手のかかる子どもだったと思います。自分が思うことと違うことを要求されるとイライラして、それができないと爆発してしまうんです。 両親はとても戸惑ったと思いますが、母がうまく対応してくれました。キレたときは、何も言わずに私が落ち着くのを見守ってくれて。私自身が興奮して困っていることをわかってくれていたんです。とてもありがたかった。キレやすい私が変われたのは、母のおかげだと思います。 高校のときは、進学校に入ったのですが不登校になってしまいました。2年生のときは一度も笑わなかったそうです。母は心配でしかたがなかったと思いますが、余計なことは一切言わずにいてくれました。とても感謝しています。 ― 親だったら「せっかく進学校に入ったのに…」と思ってしまいそうですよね。 勉強もしないで、いつも深刻な顔をしていたので、心配していたと思います。後で聞いた話ですが、高校3年生のとき、母は毎朝5時に起きてお参りすることを1年間続けていたそうです。「自ら命を絶たないように」とお願いしていたのだと。それを聞いたとき、親というのは本当にありがたいと思いました。 私が子育てをするときも、できるだけ「ああしろ、こうしろ」と言わないで、後ろから見守ってあげようと思いました。それが、母から学んだいちばんのことです。 ― 手のかかるお子さんで悩んでいるパパ・ママに何かアドバイスはありますか? キレるタイプの子どもは、どんなパパ・ママでも難しいと思います。まずは、子どもが大人になるにつれて、いずれ落ち着くだろうと信頼して見守りましょう。無理に“いい子”にしようとしてもうまくいかないと思います。ゆっくり見守りながら、自分をコントロールできるようになるのを応援する。それぐらいの長い目で育てることが大切だと思います。
ママはパパが思っている以上に大変 ~大豆生田啓友さん~
幼児教育学が専門で、3人の子どものパパでもある大豆生田啓友さん。
いつもママたちに寄り添ったアドバイスをしてくれました。
そんな大豆生田さんはどんなパパだったのか、お話を伺いました。
― いいパパであり、夫としても妻をしっかり立てるイメージがありますが、実際はどうですか? 幼児教育を専門に勉強して、幼稚園の教員をして、ママの気持ちもわかるはずだと思っていましたが、実際は「こんなはずじゃなかった」の連続でした。 子育てをはじめたころは、自分は経験も知識もある“いいパパ”だと思って、講演会でも子育ての話をしていました。でも、あるとき妻から「言っていることと、やっていることが違う」と言われたんです。私がやっていることは“ほんの少し”で、子育てや家事は“365日24時間”なんだと。今考えると、ママとの間に大きなギャップがあったとわかりますが、当時は納得できていませんでした。 そして、2人目が生まれたとき、子育てをする自分を挽回するためにも「夜泣きは私が見る」と宣言しました。 そんな中、赤ちゃんをだっこしながら執筆の仕事をしていたときです。締め切りに追われているのに、赤ちゃんはすごい勢いで泣くんですよね。子どもは大好きだと思っていたのに、すごくイライラしてきて、「うるさい!」と言ってしまって、ひどく落ち込みました。それまで、わかっているような気がしていただけで、ママたちは四六時中こうやって子どもと向き合っていて、私が思う以上に大変なことがたくさんあるのではないかと考えるようになりました。 ― パパも一緒に育児をするには、どうするのがいいと思いますか? ママはパパにやってほしいことを言うこと。「やってよ」と指示したり、「助けて」とお願いしたり、どのように言うのがよいのかはパパのタイプによります。パパは、それを一度やってみること。私もそうでしたが、「自分とママの育児についての認識にはズレがある」と考えて、ママの言うことを聞いてみましょう。
デコボコな私を受け入れてもらえた ~大日向雅美さん~
子育てに悩むパパ・ママの心理にも詳しく、子育てひろばの施設長も務める大日向雅美さん。
子どもの内向的な性格に悩むママに対して、性格は良い方向に解釈するべきと教えてくれました。
そんな大日向さんはどんな子ども時代を過ごし、どんなママだったのか、お話を伺いました。
― 大日向先生と言えば、おしとやかなイメージですが、どんな子ども時代を過ごしていたのですか? 子どものころ、母は私のことを「金平糖(こんぺいとう)ちゃん」と呼んでいました。「甘くて、小さくて、かわいらしい」という意味が半分で、残りは「できることと、できないことがデコボコだ」という意味だったんです。二人姉妹の姉は何でもできる優等生でしたが、それと比べるとデコボコな子だったんです。 ― どういうことができなかったんですか? まず、幼稚園が大嫌いで行けませんでした。小学校も嫌いでしたね。それでいて、決しておとなしい子ではなくて、いたずらしたり、けんかしたり、男の子を泣かしたりしていました。それでも、母と祖母は私のことを信頼して見守ってくれました。 そんな私も、2人の娘を授かり親になりました。長女は保育園も学校も大好き。でも、次女は私のように嫌いな子でした。そんな次女が「中学までは行かないといけないよね。その先はどこまであるの?」と聞いてきたとき、私は「あなたの気持ちわかるわ。ママも大嫌いでね。だから今でも学校に行っているの」と答えたんです。それが効いたのか、彼女は大学の先生になっているんですよ。わからないものですね。 ― 親が決めつけたり期待し過ぎたりしてもダメですし、それぞれの個性を見守るしかないですね。 そうですね。そして、楽しむことです。私はそもそもデコボコだったので、両親や祖母から「みんなはできる」「ふつうはこうだ」と言われたことがありませんでした。逆に「母親とはこういうもの」「子どもをこう思うもの」と言われると、拒否反応が出ると思います。 ― いろいろ迷っているママ・パパに、何かメッセージをお願いします。 迷ったり揺れたりすることは、すてきなことだと思ってください。それは子どもを愛しているからこそ。「これでいいのかな」と揺れながら、ちょうどよいところを探していくんです。 おとなしかったり、キツかったり、ふざけたり、いろんな“私”がいるように、人には多様な面があると思います。ママやパパにも、それをあるがままに受け入れてもらえる場所があったらいいですね。そうすると、子どもの揺れるところも受け入れられると思います。恐れずに、揺れることを楽しみましょう。
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